不思議な話

ファンタジー

【短編小説】千年樹のささやき

村のはずれ、風に葉音を響かせる一本の巨木があった。樹齢千年と伝わるその木は、「千年樹」と呼ばれ、村人たちに大切にされていた。幹は太く、両腕を広げても抱えきれない...
ミステリー

【短編小説】砂に消えた足跡

朝の海は、まだ夢を見ているように静かだった。潮風に髪をなびかせながら、女子高生・璃子はいつもの海岸を歩いていた。祖母の家に一時的に預けられているこの夏、早朝の散歩が日課になっていた。
日常

【短編小説】お昼寝タイム、はじまりました。

午後二時になると、真理のアラームが鳴る。「そろそろ、横になろうかな」在宅勤務になって三か月。毎日続くオンライン会議と、終わらぬ業務の山。慣れないデスクワークに肩は凝り、目はしょぼしょぼ。そんな彼女のささやかな日課が、午後の三十分だけ取る“お昼寝タイム”だった。
ミステリー

【短編小説】駅と駅のあいだで

午前七時三十二分発の下り電車。会社員の綾子は、毎朝同じドアから乗り込み、同じつり革を握る。窓の外には変わらない街並み。スマホには通知の山。無意識にアプリを開き、既読スルーのメッセージを流し見る。ふと、アナウンスが流れた。
ミステリー

【短編小説】消えた登山道

夏の終わり、「黒雲山」で登山客の失踪が相次いでいると聞いた記者・志帆は、背筋を張りながら単独で山に入った。地元では「山に呼ばれた者は帰れない」とささやかれているが、それでも彼女の好奇心は止まらなかった。
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【短編小説】糸あやつりの国

廃墟のような人形劇場は、町外れの丘の上にぽつりと残っていた。古びた木の看板には、かろうじて「アルカ劇場」と読める文字。風に吹かれて軋むその音は、まるで誰かが幕を引く音のようだった。
ミステリー

【短編小説】深海の記名帳

深海2000メートル、光も届かぬ海底に、静かに横たわっていたのは、沈没船「サイレント・リリー」だった。発見されたのは偶然だった。日本海溝付近での無人探査の最中、ソナーが不自然な反射を検知したのがきっかけだった。
SF

【短編小説】幸福配送サービス

日曜の朝、窓際のテーブルに置かれていたのは、見覚えのない黒い端末だった。名刺ほどの大きさで、表面にはただひとつ「幸福配送サービス」とだけ書かれている。
SF

【短編小説】屋上ノイズ

築50年の古いマンション「ミナト荘」。その最上階で、夜な夜な不可解な“音”が鳴るという噂があった。それは、午前2時ちょうどになると屋上から発せられる微弱な電磁ノイズ。近隣住民のテレビやラジオが一瞬だけ乱れ、誰もいない屋上から「ビー…ビー…ピィ……」という不規則な電子音が聞こえる。
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【短編小説】忘却の果実

旅人リオは、その日も異国の陽射しを浴びて、砂と香辛料の匂いが入り混じる市場を歩いていた。色とりどりの布、陽気な音楽、行き交う声。遠く地中海の風が吹き込むこの町には、世界のどこにもない雑多な魅力があった。